ショートエッセイ 根にもつタイプの独り言 part2

ここに登場する個人、団体、企業はすべて架空のものです。

ロクデナシ図鑑

もうどんな組織にも属したくはなかったので、大西史敏(ふみとし)という野郎と一緒に茨城県竜ケ崎市寺後、別名旧市街に塾を作った。名称は学習塾リリーフ。

ここで、あろうことかあるまいことか、濃厚接触をしてしまったのである。もちろんコロナではない。ロリコンに、である。

発端は大西が田中樹里という当時中学3年生に「ぼく、すごく寂しい。樹里ちゃんにずっとずっとそばにいて欲しい」などと受験をまじかに控えたクリスマスに愛(?)の告白をしたことから始まる。

可哀想だったのは、田中の近所に住み、一緒に塾へきていた山城という女の子だった。ふたりは山城を隠れ蓑として利用し、夜の十一時前後まで塾で補習という名目で遊んでいた。

田中が中学校を卒業し、二人の行動はエスカレートしていった。車でドライブなどは当たり前のことで、朝、大西と一緒に住んでいたアパートに(金がなかったのと、大西の親から頼まれたので)田中は私がいないのを見計らって上がり込んでセックスに励んでいた。お得意の寂しい笑顔が田中の股を開かせたらしい。

毎朝、初めは殊勝にも大西は早起きをして田中をどこかへ連れていっていたが、生来の怠け者の癖がでて、今度は田中が大西を起こすべくアパートの壁をどんどん叩き、それによって大西が飛び出していくという始末。

夏休みになると、旧市街にあるケンタッキーと太陽とかいうスーパーの駐車場で、毎晩、夜の十一時に大西が車を止め、田中が家を忍びだしてホテルへ直行となっていた。

田中は田中の母親が16歳のときに産んだ子供なので、親子ともどもセックスは大好きのようだった。終い頃には、私がいても平気で隣の部屋で田中は大西と楽しい時間を過ごすようになっていた。

こんな最中に事件がおきた。

大西が小学5年生の腹に膝蹴りをして、襟首を持ち上げて、喋ったらただじゃ置かねえぞ、と脅したのだ。

小学生の大野達也はいつも通りに塾へきたのだが、ちょうどペッディングにふけっていた大西と田中の姿を見てしまったのだ。田中はキャーという大声をだして教室の隅に隠れ、大西はよだれを拭きながら小学生を脅したのである。

小学生はおびえて様子がおかしくなり、また、二番目の姉の大野明子が塾で大西に「達也が家でなにか喋ったか」としつこく問いただしたことで、なにかあったと感じた家の者が問い正し、達也に白状させたようだった。

これらのことを私に知らせてくれたのが達也の一番上の姉の大野里子だった。大野は志望校に落ちて滑り止めの聖泉女子高に進学した生徒だった。塾で開いた卒業記念に出席しなかったので、私は手紙と筆記用具を記念品として弟に手渡した。大西は田中とセックスに忙しくなにもしなかった。

大西に聞かれないように大野は私を誘って外に出て、弟が受けたことを私に話してくれた。
大西は私にしつこく問いただし、大野が何を喋ったのかを聞き出そうとしたが、無駄なことである。しかも最後は泣き落としなのか「ぼくも大野のことが心配なんです」などとふざけたことまで言い出す始末。

それから大西の大野に対する嫌がらせが始まった。
弟の授業のとき、そんな計算ミスしているようじゃあ聖泉女子高にしか行けないぞ、と他の男子生徒に言ったりして、授業中に弟のいる前でさんざんなことを言っていた。
なかでも田中が小学生の授業中に電話をしていたようで、授業など30分以上中断するのもざらだったようだ。
そのくせ私がでると速攻で電話は切られた。イタ電の田中である。

その後、お遊びは塾内にまで広がり、田中が小学生の授業をやっていた。その間、大西はアンチョコを頼りに自作テキストと称するものをつくっていた。
大西は高校生の頃、ブドウだかリンゴだかレモンだかしらないが、そんなような題名の作文で一等賞をとったらしい。
作家になり損ねたせいなのかどうかは知らないが、英語のテキストを教科書ガイドというのかアンチョコというのかをみながら、自作のテキストと称するものを書いていて、オレ様の英語は世界一とかいっていた。
塾は完全に大西と田中の遊び場になってしまった。

そうこうしている間も大野に対する誹謗中傷がエスカレートし、ついに大野が大西と対決すると言い出した。私は必死に止めた。
大西は都合が悪ければ黙り込むような奴で、それが二時間でも三時間でも続くのである。正直言って、私ですら手に余っているのに、大野が相手にできるようなタマじゃないのである。

それでも、と大野に言い張られ、仕方なく話し合いなるものをおこなったが、その三、四時間中、大西は黙りこくったままで、なにやら書いてきた作文を手渡せば終わりになると考えていたらしい。出した手紙は受け取らなかった。ウソにまみれた手紙などなんの役にも立たない。

ところが大野はそんな手紙など一瞥(いちべつ)すらせず、弟や妹そして自分自身を弁明すべく強硬に立ち向かい、泣いたりキレたりして迫ったのだが、相手はダンマリの大西である。勝負は目に見えていた。
その間、暇そうにしていた田中は机の木目を数えたりして、ふてくされていた。理由はわからない。おそらく自分が悲劇のヒロインを気取ろうとしたのに誰も相手にしなかったのが原因だろう。

この態度に私はムカついて大西にあとでいうと、(大西は田中がいないとすぐ土下座する野郎で、これで私を手玉にでもとれるとでも考えているらしい)、「ぼくもそう思います」といった。

翌日、どういうわけか田中がひとりで私を訪ねてきた。用事は「みんな私の態度に怒っているって大西先生が言っていたんだけど、私、先生に対してどんなことをすればいいんでしょうか?」といったものだった。どうやら田中には大西もムカついたことは言っていないようだった。

田中の自信たっぷりな態度に大西の顔が重なった。田中の自信は大西が常々私が二人の仲を嫉妬しているといっているのに違いない。
黙りこくっていれば自分が引き起こした害悪ですら、どこかへ行くと考えている大西の本性を引きずり出すには田中を利用するしかあるまい。なにしろ、ロリコンだから女の子の前じゃあ男らしい男を演ずるのが常套手段なのである。

しかたがないがやるしかないだろう。金が絡めば人間、本性を現す。こんどこそあのだんまり野郎の本性を暴き出してやる。
「大野のことは大野に聞かなきゃわからねえ。だが、オレに関しては金だな。五百万円慰謝料として払ってもらおうか」

「はい、わかりました」とセックスをして一人前になったつもりでいる田中は二つ返事で了承してかえっていった。

五百万円の件で大西と田中そして私の間で話し合いがもたれた。
「お母さんが必要ないっていってた」と田中が言った。なぜここで母親がでてくるかが理解できなかったので、「どういうこと?」といった途端、白馬のだんまり騎士、大西が「金なんて払わねえっていってんだよ。だいたい相手は高校一年生だぞ。そんなのに金を要求するのは常識ねえぞ、てめえは。それにてめえはしつけえんだよ。大野の家と結託して金を要求するとはどういう了見だ、てめえぇ。今まで我慢してきたが今日は違うからな。本当のことをいうからな」真っ青な顔をして膝を震わせて立ち上がりながら、大声でわめいていた。

はて、いままで何を我慢してきたのだろう。高校一年生を毎朝どこかへ連れ出し、塾やアパートに連れ込み、連日連夜のセックスは非常識じゃないらしい。
まあ、いいや。なにを我慢していたのかわからないが、殊勝な顔をして私は大西に喚かせておくままにした。ようやく本性をだしたのだから……。

「オレに関することはわかった。で、大野のことはどうなんだよ」
「大野なんて馬鹿じゃねえか。バカのくせに生意気なんだよ」
「達也のことは、どうなんだよ」
「知らねえな。子供がいつでも本当のことをいうとは限らねえよ。それにな、俺たちはバカなんだよ。もう忘れたね」

ふざけんなよ、と押し問答になりかけたとき、塾のドアが開いた。大野が入ってきた。私は急いで大野のところへ行った。
「どうした?」
「体調が悪いから、今日、先生の授業を休もうかと思って」
といいながら、大野は一番みてはならないものを見てしまったのだ。
大西と田中が顔を見合わせてほくそ笑んでいる顔を。

大野は私になんの話をしていたのかを聞いた。「例の五百万円のことだよ。お前の家も関係しているらしいぞ」と冗談めかして言ったが、大野はほくそ笑んでいる大西にカバンを振り上げて「なんでうちが五百万と関係があるんだよ」と怒鳴った。

「いや、あの……、先生、誤解しちゃって」と大西は口ごもりながら言い訳をしようとしたのだが、田中がいることを思い出したらしい。

「だって、お前らが悪いんだろう。この間の話し合いだってそうだ。俺たちを悪者に仕立て上げやがって」と大西は言った。
「誰に対してお前らを悪者にすりゃあいいんだよ。それに、お前らを悪者にしてこっちになんの得があるんだよ。言ってみろよ」と私がいうと
「そうだよ、何の得があるのか言ってみろよ」と大野がキレていった。

刻々と時間が過ぎ、黙り込んでいた大西がようやく口を開いた。田中を家へ連れていく時間が来たようだ。だが大野がそれを頑として阻んでいる。観念したのだろう。

「そういう話が俺のところに入っているんだ」と大西が言った。
「誰がいったんだよ」と大野。
「いってもいいけど、あとでその子のこと虐めない?」
「てめえじゃねえんだ。はやくいえよ」と私。
「早くしろよ」と大野。

「増山加奈ちゃんだよ。明子ちゃんから聞いたっていってた」

私は大野の家に電話をして話をした。
先に仕掛けてきたのは増山のほうだった。「大西ってやな奴だよね」といって近づいてきたのだが、明子は母親から塾のことはいうな、と厳命されていたため、なにも答えなかった。結局、増山が勝手に話をでっちあげた、というのが真相である。

「なんで、ここで増山が登場するんだよ。なんていって丸め込んだんだ」と私。
「俺が高校生と付き合っていることは知っているよな。そのことで口止め料として五百万円支払えと脅されているんだ。大野の家でどんなことを話しているか調べてくれないか」と事務室で増山と湯本という二人の女子に、平気で噓をついて子供に頼ったのが始まりのようだった。

後日、私は大野を教えるべく塾を捨てアパートをでた。塾の責任者としてできる私の大野の家に対する責任の取り方としては、これが精一杯だったのだ。
大西がアパートは任してください、と執拗に言い張った。どうせ実家の都合で田舎に帰ったとでもいうつもりだろう。大野が通ってこれない場所にアパートを見つけてきた。決まるまで二度もアパートの位置を変えさせることになった。
街で顔見知りや生徒に会うと、みな一様に驚いた顔をした。
ロリコンは巧みなウソがお上手なのである。

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