概 要
ここでは、ExcelとPower BIによる経営ダッシュボードを作成し、売上分析を行う。方法としては、グラフ化と解釈である。
グラフ化というのは、データをグラフにすることで、昔から行われていた方法である。
問題は解釈の方である。
解釈というのは、グラフの各線の動きが上がっただの下がっただのといったことではなく、グラフを見て、自身のもつ知識と経験に基づいて、課題点・問題点を浮き彫りにすることを意味する。
ダッシュボードとは数種類のグラフを一枚に集約し、スライサー(切り口)を使ってグラフを変化させることによって、課題点・問題点をあぶり出し、最終的に戦略と戦術を立案することを目的としている。
戦略と戦術とは、「木を見て森を見ない」という言葉に従えば、木が戦術、森が戦略にあたる。従って、ダッシュボードの解釈とは一種の経営者ゲームと考えて差し支えないだろう。
しかし、ゲームと違うところは、解釈が十人十色であり、正解がないということである。会社など組織は、そういった解釈をさらに吟味して、なんとか売上アップにつなげようとしているのである。
ここで扱うデータは製造業の売上である。売上分析には定石があるようで、手法を列挙してみると
因数分解、アソシエーション分析、重回帰分析、RFM分析、ABC分析、デシル分析、クロス集計
といったものであるが、ここではそんな御大層なものは扱わない。誰でも簡単にグラフを作成でき解釈できるものを扱う。
データをグラフに落とすときには大きく分けて2通りある。ひとつは統計手法によるもの、もうひとつはグラフ化である。まずは、この二つの違いを述べる。
特徴は、生データを数学を用いて加工することにある。ところがその結果、やれP値がどうしたこうしただの、t値がへったくっただの、F値はどこへ逃げやがっただの、とひとしきりもめたあげく「おまえはバカだ、カスだ、デブだ」とそりゃあもう大騒ぎ。
極めつけは現場に報告すれば
「だからどうした。当り前じゃねえか。パソコンなんてやっているからおまえはダメなんだよ。そろそろおれたちと一緒に大人の仕事をしたらどうなんだ?」
と諭される始末である。
統計手法を使うのは大騒ぎが好きな人向けといえるかもしれない。
こちらは生データをたいして加工することもなく、そのままグラフに落とすだけである。使うグラフも折れ線、棒、円、折れ線と棒、とこの四種類あれば、まあこと足りる。大騒ぎする時間もかからず、まことにもって”お気軽・お手軽”な手法である。
ブログといえども、大騒ぎや面倒はごめんである。従って、このブログではグラフ化(可視化、見える化ともいう)を扱う。
売上分析を行うには、日本の慣習に従って、年度表示にしなければならない。一部のグラフを除き、すべて年度表示にした。
Microsoft社の”Power BI”と”Excel”をツールとして使う。この2つは誰でも手に入れることができるからである。また、この二つを同じデータに用いることで、両者の使い勝手なども評価する。
レベルメーター
実績値、目標値、達成率をグラフにしたものをレベルメーターという。
この製造業の会社では、2017年(年度なら2016年度の1月から)の1月から11年(そのうち1年は余裕期間としてある)という長期計画をたて、途中経過の3年目にデータをグラフに落として、評価することにした。Power BIの370bnは5~6年目の経過、Excelの540bnは最終目標の数値である。


Power BIの方が作成するのに圧倒的に楽である。ただし小回りが利くのはExcelである。縦にも描ける。
経営者はこのグラフをみて、
- 中期的にみて、3年で累計54%というのは、残り2年で累計46%を達成できるのかどうかがわからない。
- 長期的に見て、残り7年(猶予期間を入れれば8年)だが、期間だけは豊富にあるが、売上がそれについていけるのかどうか。
- スライサーで各年度ごとに示すと、売上が低調気味に感じる。
そこで、全体の売上推移を調べることにした。
売上推移と移動平均
ここでは売上推移に対して3カ月移動平均をとっている。3カ月は四半期にあたるので妥当だと考えている。


これはExcelのほうが圧倒的に簡単である。年度表記にしたため、Power BIの方は2分割しなければなかった。
移動平均に対して季節変動は取り除かなかった。理由は季節変動が表示されなくては、どの時期に何が売れて、それに対応する商品をどの程度準備しなければならないのかが、わからなくなるからである。
売上分析に対して季節変動は重要な指標である。
これを見ると売上は2月の落ち込みは大きく、逆に1月は大きい。しかし、移動平均をかけると、ほぼ横ばいの状態になっている。
これを堅実な経営とみるか、停滞しているとみるか、どちらかに決めなければ戦略が立たなくなる。製品の調整、修正などの戦術も、現時点では決めかねる。
確認のため、年度累計を調べることにした。
年度累計
年度累計は読んで字のごとしで、年度ごとの売上を積み上げていったものである。累計線が直線であれば順調と判断できるし、各年度の累計線が直線ならば傾きを見ることで売上が急か穏やかかがわかる。
また、これは商品スライサーをかけることによって、どの商品が順調に推移しているのか、あるいは直線にならなければ停滞した月がわかるのである。


Power BIでもExcelでも作成は簡単である。ただ、Excelの方がスライダーを使わなくて済む分、見やすい。
- 各年度ごとに見ると、グラフは直線で、傾きもほぼ同じであり、売上は各年度でさほど違わないのがわかる。
- このグラフからは停滞している月がないようなので、堅実な経営と判断しても差し支えないかもしれない。
- 商品スライサーをかけると、月ごとの売上に停滞したりといった傾向が見えるのが気にかかる。
移動平均、年度累計などをみて、全体としては堅調な売上を示していることはわかったのだが、もう少し細かく月単位、つまり前年度同月比を調べる必要があると考えた。
前年度同月比
前年度同月比のグラフの見方は単純である。
100%のラインをウロチョロしていれば、前年度と同程度の売上である
といった程度だが、いざグラフを前にしたときに見誤る人がいるので製造業のグラフの前に、2つ例を挙げる。
このグラフは2021年度に比べて700%、およそ7倍も売上が跳ね上がっている。ところが2023年度の1月から2024年度にかけては急落して200%になっている。
これを売上が落ちたと見るのは誤りである。確かに2022年度から2023年度の12月までは前年度の7倍の売上があったのだが、翌年度はあがり幅は小さいが、前年度より200%、つまり2倍売り上げているのである。要するに売上は年度を追うごとに大きくなっているのである。
このグラフは2018年度に比べて40ポイント減の60%しか売上がないにも関わらず、2020年度の1月からは100%になっている。
これを売上が回復したと見るのは誤りである。100%とは前年度と同程度ということであり、2020年度の1月から2022年度の売上は前年度と同じ、40%減のままであることを示している。
さて、いよいよ製造業のデータである。


グラフの作成はPower BI、Excelともに簡単である。
これを見る限り、100%のラインをウロチョロしているので、各年度の売上は前年度と同程度とみて差し支えないし、移動平均、年度累計と一致している。ところが……
- 月ごとの変動が大きく、売上が上がった月を下がった月で補うような、一種の共食い状態になっているのではないか。
- 売上が横ばいというのも、順調ではなく、停滞としてみた方がいいのではないか。
という考えが浮き上がってきた。そこで、もう少し掘り下げて、商品の個数がどうなっているのかを調べることにした。
散布図(バブルチャート)
散布図(バブルチャート)に入る前に以下2つのグラフを見て欲しい。


各商品を大きい順に並べると、売上と個数が一致していないのがわかる。理由は簡単で商品単価が違うからである。
この2つのグラフをひとつにまとめたものが散布図、いわゆるバブルチャートである。


では、売上分析に個数はどの程度入れればいいのであろうか。課題点・問題点に入る前に下記のグラフを見て欲しい。














これらのグラフにさしたる違いはない。売上推移と個数推移に若干の違いはあるが、移動平均をかければ、ほぼ同じであり、また月ごとの売上の高低もほぼ同じである。
販売網で売上は日本地図、個数はじょうごを使ったが、これは好みの問題である。どちらも円グラフで構わない。
結局、売上分析に個数を入れるのであれば
の三種類があれば、いいようである。
さて、製造業のデータに戻ると、
- 売上と個数が最小のオプションと補修部品の規模を縮小して、中核をなす小型機械A,Bと中型機械A,Bに注力した方がいいのではないか。
- 大型機械はこの位置を保持するよう、営業力を強化した方がいいのではないか。
- 中型機械と小型機械は売上、個数ともさしたる違いはないようである。この2機種の差別化を図った方がいいのではないか。
- 稼働ラインをみると杭瀬下ラインがどの年度を見ても売上、個数ともに最小であり、統廃合を検討すべきではないか。
- 西日本における売上が低調である。競合他社の動きと販売価格を調べるとともに、西日本にも拠点をひとつ作った方がいいのではないか。
- 海外への輸出は現状で構わないが、製品の使われ方をチェックして、それに合わせた製品づくりをすべきではないか。
という考えが浮かんだ。この中でも最初に挙げたオプションと補修部品の扱いについては、商品伸び率を見なければならないだろう。
商品伸び率
これはPower BIでもExcelでも同じである。伸び率とは、この場合、2017年を100%として、2018年、2019年で各商品がどれだけ伸びたのか、あるいは下降したのかをみるのである。(年度は使わない)


オプションと補修部品は2年連続で100%のラインを超えているのに対して、売り上げの中核をなす中型機械A,Bは2年連続で100%のラインを割っている。
- オプションと補修部品を縮小したり廃止するわけにはいかない。
- 中型機械A,Bを100%のラインまで回復させなければならない。
製造業のダッシュボード
これまでのことをダッシュボードとしてまとめ上げて、戦略と戦術を決定する。
これらのグラフを連携させて、戦略と戦術を決定する。
戦略と戦術の鉄則は
戦術は複数
これを守らなければならない。(森と木の関係をみれば明らかだろう)
さて、達成期間がまだ8年余りあることから、
攻めの現状維持
とした。下手に海外進出をしたり、西日本に拠点を作るなどの積極策はとらなかった。
- 伸び率が低い中型機械A、Bを最低限度の装備のみにして価格を下げ、残りはオプション扱いにした。
- 小型機械と中型機械をバッティングさせるわけにはいかないので、小型機械にはオプション設定を無くし、中型機械のみオプション設定を設けた。
- 杭瀬下ラインの機能を内川ラインと八幡ラインに分散させた。
- 杭瀬下ラインの跡地を売却することにした。(はじめは補修部品やオプションの倉庫として使用する予定でいたのだが、コストと補修部品とオプションの製作期間を勘案して、売却へ舵を切った)
- 海外拠点は変更せず、災害復旧工事用に大型機械を投入し、すばやく運搬できるように運送用トラックの配置を完備させた。
- 半年に一度は納入先へ社員をやり、点検整備を充実させ、なるべく補修部品を買ってもらうように仕向けた。
- 納入先の使い方を調べオプションを売り込むことにした。
以上で、一つひとつのグラフから、課題点・問題点をあぶり出し、ダッシュボードとして俯瞰して、ひとつの戦略と戦術を(たとえ解釈に齟齬があるにしても)立案することができた。
あとは、数人なのか数十人なのかは知らないが、皆でもっとも売上が大きくなる戦略と戦術を決定するだけである。
サイトご利用方法
次のページ・前のページを利用するよりも、グローバルメニュー(ヘッダー部分にある項目)をクリックしていただければ、その項目の全体像が一目でみることができ、クリックすればそのサイトへ飛びます。
google、yahoo、Bingなどで検索する場合、検索ワードは先頭に、孤立じじい、と入力しその後に、ダッシュボード or インテリア or 統計 or 談話室、とどれかひとつを入力すると、その検索サイトが上位表示されます。